巻頭言 |
当科は、呼吸器(肺・胸膜・縦隔等)と乳腺の外科治療を中心とした治療を行っており、その理念は、“自分や自分の家族が病気になったときに受けたい医療を”、です。この理念を実現するために、1) 手術等の臨床技術と臨床に役立つ研究を極め、2)患者さんごとに最適の医療(個別化医療)を追求し、3) 最後まで治療をあきらめない(“最後の砦”)、を目指して教室員一同努力しています。具体的には、比較的早期の肺癌であれば完全内視鏡(胸腔鏡)下手術や肺の切除範囲を最小にして肺機能を可能な限り温存する縮小手術(区域切除)等の、体へ負担の少ない手術を行っています。更に、2018年4月より保険適応となった手術用ロボット(da Vinci)を用いた肺癌や縦隔腫瘍の手術も行っており、既に41例を実施しました。また進行肺癌の場合も、血管形成や気管支形成等のあらゆる技術を駆使して肺機能の温存に努めています。また特定機能病院としての長所を利用して他診療科とも協力し、心臓の一部や脊椎等に浸潤している場合でも合併切除(拡大手術)や最新の抗がん剤(EGFR/ALK阻害剤や抗VEGF抗体等の分子標的薬剤、新しい免疫療法剤であるPD-1/PD-L1抗体等の免疫チェックポイント阻害剤)や放射線治療との組み合わせ(集学的治療)による治癒を目指します。更に、より良い診断法や治療法の開発を目的に、基礎および臨床研究や新薬の治験にも取り組んでいます(詳細は「治験・臨床試験・研究について」をご覧ください)。これには、1) 小さな肺癌に対して手術前に肺にマーキングをしておき確実にかつ最小の切除範囲で手術を行う“VAL-MAP法”、2) 手術前あるいは手術後に免疫チェックポイント阻害剤を投与して手術成績の向上を図るといった治験、等が含まれます。
平成22年12月1日に田中文啓(昭和61年京都大学卒業)が教授として着任し約8年半が経ちました。前任地の兵庫医科大学での経験を生かしてアスベスト関連腫瘍である胸膜中皮腫の研究診断治療にも力を注いでおり、新しい手術方法である胸膜切除/肺剥皮術(P/D)も取り入れて従来の手術法(胸膜肺全摘術・EPP)に耐えられない患者さんにも手術が可能になってきました。病院内外の多くの方々の協力のおかげで昨年一年間には年間に急患を含め531件(うち原発性肺癌手術は213件、詳細は[手術件数]をご覧ください)の手術を行いました。今後も呼吸器外科・乳腺外科の発展のため、医局員一同一丸となり、診療・研究・人材育成・地域医療のため、最善を尽くす所存です。 |